【絵本】「ももたろう」のどんぶらこ離れについて
ももたろう
日本にある昔話の中でもっとも有名な話といっても過言ではありませんよね。
子どもからお年寄りまで誰もが知っているストーリーです。
ももたろうは絵本作品としても多く出版されていますが、なかでも人気なのがこちらの作品です。
福音館書店が出版している「ももたろう」
(松居直 文 赤羽末吉 画)。
数あるももたろうの絵本としては一番売れており、1965年の初版から数えて既に100万部以上出版されている、かなりスゴイ作品です。
ゆえにご存知の方も多いでしょう。
この絵本はうちにもありまして、3歳ごろから読み聞かせているのですが、どうも不思議な場面があります。
それはももたろうの名シーンのひとつ、桃が川から流れてくるシーン。
あるひ、おばあさんが かわでせんたくをしていると、
かわかみから ももが
つんぶくかんぶく
つんぶくかんぶく
と ながれてきました
つんぶくかんぶく????
そうなんですよ。
最初から最後までページをくまなく見たのですが・・・
どんぶらこが一向に出てこない。
ももが流れる効果音=どんぶらこ と信じており、子どもにもそう伝えていたのですが、
まさかのつんぶくかんぶく。
聞いたこともない擬音語。
どんぶらこですら、オノマトペとして際立っているのにさらに上を行く未知なる存在つんぶくかんぶく。
うちのこどもも衝撃を受け、「おかあさん、どんぶらこっていわないね」と一言。
いや、そんなわけあるまい、と。桃はどんぶらことしか流れないはず。
こどもに「どんぶらこ」を聞かせたい・・・
親なら誰しも自分が通った道を子どもに歩ませたいという気持ちがあるでしょう。いわば親のエゴかもしれない。私は私の心の中にあるどんぶらこエゴを満たすために町のちいさな図書館に足を運んだのでした。
が。。。。
その後、図書館にあるももたろうを読み漁ったのですが、
どれもこれもどんぶらことはいわず、この状況はもはや
といえる緊急事態と感じましたので、もう私のどんぶらこエゴとは決別し、この事実を一人でも多くの方に知っていただくべく記事にしました。
本題:絵本「ももたろう」におけるどんぶらこの表現を調べる
ということで、先ほど紹介した福音館書店の「ももたろう」と図書館で借りた4冊の「ももたろう」の
計5冊においてどんぶらこがどのように表現されているかをご紹介したいと思います。ただただマニアックな記事となっておりますがよろしくお願いします。
1.福音館書店「ももたろう」(松居直 文、赤羽末吉 画)
まずは冒頭でもご紹介した、ももたろう。
もう一度おさらいしてみると、
あるひ、おばあさんが かわでせんたくをしていると、
かわかみから ももが
つんぶくかんぶく
つんぶくかんぶく
と ながれてきました
実際のページを再現するとこんな感じです。
こちらの作者は松居直という方。絵はスーホーの白い馬でおなじみの赤羽末吉氏。
松居氏は福音館書店の元社長であり、絵本界のスーパープロデューサーといっても過言ではないでしょう。数多くの絵本作家を発掘し育ててきためちゃめちゃすごい人。
で、問題の「つんぶくかんぶく」については、このように触れています。
「絵本『ももたろう』は、青森県南部地方の五戸という地域に伝わる桃太郎をもとに再話(※)した」と述べています(『絵本をみる眼』 松居直/福音館書店より)。五戸の桃太郎が1番感情豊かだったこと、そして人々の間で語られてきたその語り口が桃太郎のお話にピッタリだったことが決め手になったといたということです。
各地に受け継がれている民話ももたろうを比較し、そのうえで五戸のももたろうを形に残すことにし、「つんぶくかんぶく」という表現が使われたようです。
いわれてみれば東北の言葉のような気もしなくもない…?
ほかにも、おじいさんとおばあさんが鬼退治を引き留めたり、ももたろうがお姫様を助けたり、最後に鬼が桃太郎たちを船で見送ったりと、オーソドックスなももたろうとは少しだけ違いがみられます。
【当時の読み聞かせノートメモより】字が汚くてすみません…。
2.ポプラ社「ももの子たろう」(ぶん大川悦男 え箕田源二郎)
タイトルが「ももたろう」でもなく、「ももの子たろう」。すでにクセを感じます。
気になるどんぶらこシーンはいかに
ある日、ばあさまが 川で せんたくを しておったら、
かみの ほうから、ももが
つんぶら つんぶら
と ながれてきた
でた、今度はつんぶらつんぶら!!!
おそらく、こちらも東北のことばなのでしょうか?
つんぶくかんぶくの仲間と思ってよいでしょう。
実際のページを再現するとこんな感じです。
3.こぐま社「ももたろう」馬場のぼる
11ぴきのねこシリーズでおなじみ、馬場のぼる氏によるももたろう。
柔らかいタッチで小さな子どもたちにも親しみやすい作品ですが・・・
気になるシーンはこちら
ばさまが せんたく していると、
かわかみから
おおきな ももが
つんぶ かんぶ
つんぶ かんぶ
とながれてきました
実際のページを再現するとこんな感じです。
「つんぶくかんぶく」
「つんぶつんぶ」と来てまるで両者をハイブリッドしたかのような
「つんぶかんぶ」がでました。
もう、ここまでくるとどんぶらこでなくても驚くことはないですね。
なお、こちらのももたろうは、かなりグウタラな一面がみられます。実際に各地に伝わる桃太郎には怠け者もいたそうです。
【当時の読み聞かせノートメモより】
4.フレーベル館「ももたろう(日本むかし話)」(瀬川康男絵 松谷みよ子文)
瀬川康男&松谷みよ子といえば、日本で最も売れている絵本「いないいないばあ (松谷みよ子 あかちゃんの本)」のコンビです。
松谷氏は夫とともに民話採集に取り組んでおり、昔話も多く手掛けていますが。。。
さて、例のシーンはこちら。
ばあさまが かわで せんたくを していると
かわかみから おおきな ももが
どんぶり
かっしり
つっつんご
どんぶり
かっしり
つっつんご
いうて、ながれてきた
どんぶり はまだわかる、
どんぶらこに似ているから。
でもその後の
かっしり
つっつんごって何?
なにかと衝突した音に聞こえなくもないのですが、皆さんはどう思われるでしょうか。
これはグーグルで検索してもわからなかった。
実際のページを再現するとこんな感じです。
ちなみに、こちらのももたろうは絵がかなり独特です。うちの子(当時3歳)にはちょっとわかりづらかったみたいですが、もう少し大きくなると魅力がわかるようになるかも…?
5.小峰書店「ももたろう」赤座憲久 小沢良吉
最後にご紹介するのは、児童文学作家 赤座憲久氏による「ももたろう」です。
赤座氏は祖母から伝えられた「ももたろう」のお話を描いたといいますが・・・
かわかみから たらいがひとつ、
ゆうらりこ ゆうらりこ とながれてきたんやって
ん?ゆうらりこ??
ってたらいって何?桃は?
とおもっていると次のページをみて衝撃
たらいのなかには うまれて
いちねんも たっておらん
はだかんぼの おとこのこが
あおむけに ねかされ、りょうてに
ももを ひとつ にぎっておった
まさかの桃を持った男の子がながれてくる説。
これはもう事件としか言いようがないのですが…。笑
あとがきにて、「自分が聞かされたももたろうはどういうわけか、桃を持った男の子が流れてくるという話だった」ということが語られています。
あとは、きびだんごを家来に半分しか与えないという場面も。作者は少年の頃、「桃太郎はなんてケチなんだ」と思ったそうです。
鬼たちが大勢の子どもをさらう、というシーンもありまして、きびだんごは子どもたちに残しておいたのかもしれませんね。
かなり独特な物語ですが、子供の頃に伝え聞いた話を残すっていうのもなんか素敵です。
そうそう、忘れていましたが、「ゆうらりこ」はユラユラ、とゆりかごが揺れるようなイメージなのでしょうか。
桃はどんぶらどんぶらで、たらいだとちょっとゆうらりこと優雅な感じ?がします。
【当時の読み聞かせノートメモより】超殴り書きですみません
結論:どんぶらこじゃなくても良いじゃない
以上、ももたろうを5作品紹介しましたが、
ほんとに「どんぶらこ」がことごとく出ませんでした。近所のちいさな図書館ではこれが限界です。
どんぶらこを娘に聞かせることには失敗してしまいました。
しかし、なぜだか清々しい気持ちになれたのです。
むしろ自分の固定概念「桃=どんぶらこと流れる」を見事に壊され、カルチャーショックを受けたような心地でいます。
また、作者側の立場に立ってみますと、オーソドックスなももたろうを描くのではなく、日本の片隅でひっそりと語り継がれてきた「ももたろう」を形に残したいという気持ちがあったのでしょう。その精神がとてもステキです。
そして、改めて日本語の豊かさにも気付かされます。
だって、桃が流れる音でこんなにたくさん表現ができるんですよ。これってとても贅沢な事ですよね。
日本語は英語と比べてオノマトペがとにかく多く、それにより物事の些細な違いを使い分けることができます。雨が降っている場合も、しとしと、ぽつぽつ、ざーざー、などなどありますよね。
なので、桃が流れる音も、「どんぶらこ」「つんぶくかんぶく」「どんぶり かっしり つっつんご」とさまざまあっての良いのではないでしょうか。
でも、やっぱり「どんぶらこ」を聞かせたいのでもし、どんぶらこが出てくる「ももたろう」があったらぜひ情報をお願いします。
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